あいちトリエンナーレ「旅館アポリア」で思い出す昭和14年の俳句と2019年の短歌

【戦争が廊下の奥に立ってゐた】
 
これは渡辺白泉という俳人昭和14年(1939)に詠んだ俳句です。
 
白泉はとりたてて強い反戦思想を持っていたわけでもなく、ふつうに文学を愛する若者でした。
忍び寄る危機感を自分に与えられた表現で純粋に言い表しただけだったのでしょう。
 
でも、こういった句を詠んだ他の俳人らとともに治安維持法で逮捕されてしまいました。
 
 
 
この句が発表された80年後の2019年9月、毎日新聞の毎日歌壇という短歌投稿欄でこんな首が選ばれました。
(選者は、名古屋在住の歌人加藤治郎さんです)
 
 
【戦争が廊下の奥に座ってて名古屋市長が撤去させてた】
 
 
渡辺白泉の本歌取りです。
 
 
この短歌は、比喩と事実を織り交ぜているため、立場によってどう読み取るのかが非常に難しい。
 
 
撤去させてくれて良かったよくやった。
なのか。
 
それとも、
無かったコトにしちゃうの、なんで?
なのか。
 
この三十一文字だけでは判断できません。
 
 
 
このように人によって、立場によって、考え方によって、いろいろな解釈があるのは当然で、それぞれの立場で考え、それぞれの立場を認め合う、そんな舞台があることが大切なような気もします。
 
 
ふたつの句と首を思い出してしまったのは、あいちトリエンナーレ豊田会場「旅館アポリア」(ホー・ツーニェン)の力によるところが大きいです。

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80年以上経って、もうそこにはいないはずなのに、廊下の奥にそれに似た気配を感じさせてしまうような、「旅館アポリア」という作品はそんな強い力を持っています。
 
 
 
あいちトリエンナーレはあと2週間余り。
「旅館アポリア」をはじめ、興味深い作品がたくさんあります。
 
毎日いろいろがあって、いつどうなるかわからない状況なので、お早めに鑑賞あれ。
とりあえず、まずは、そこから。
「旅館アポリア」レビュー(9月24日)です。