カーリング女子「そだねー」は世界を救う

「センターガードをまず置きに行きます」「ダブルテイクアウト狙いですね」
 
この人は予言者か?!
 
カーリングのテレビ中継では、まるで予言するかのように、解説者が次なる一手を正確に教えてくれます。
なるほどそこは氷上のチェスと呼ばれるカーリング、ストーンの配置や展開から導き出される定石のようなものがあるからなんですね。
 
チェスや囲碁の場合、駒や碁石をひょいと指でつまんで目指す盤上に置くわけですから考え方は間違っても、そのアクション自体にはミスはありえません。
 
対してカーリングは、それを氷の上で行うから厄介です。
強引に例えるならそれは、ローションを塗りたぐった指先で碁石を運ぶようなもの。滑って落として違うところに指しても受け入れるしかない。
 
 
なにが起きるかわからない「筋書きのないドラマ」がスポーツの醍醐味だとしたら、なにを起こそうとしているのかわかってはいるが「筋書き通りにはいかない」のがカーリング
 
 
 
カーリングは4年に一回しか目にしないけれど、今年ほどじっくり見てしまった冬はない。
なぜか?
きっかけはもちろん、「そだね〜」と4人の笑顔、なんですが、それだけではありません。
 
 
1:簡単そうで複雑
ルールがよくわからないまま見始めて、解説を通じて知るにつれ、「あそこに置くと次に相手はこうして〜」とにわか分析をしたくなって、あたかも5人目の選手かコーチになった気分が味わえる。
 
 
 
2:流れる時間が心地よい
ストーンが氷を滑っていく時間が速くもなく遅くもなくこれまた絶妙で、しかもその優雅な滑りとは真逆の激しいスィーピングが不思議な時間感覚を生み出している。
 
 
 
3:歩くのでもなく走るのでもなく平行移動
試合中、選手たちはハウスとストーンを投げる位置との間を何度か往復します。
片足を氷に設置させたまま、もう一方の足で氷を蹴り、風を切るように滑っていきます。
その姿は、まるでイオンモールをローラーシューズですいすい縫っていくおさげ髪の少女たちのよう。
自転車、セグウェイに次ぐ未来の移動手段を垣間見るようです。
 
 
 
4:審判はどこにいるのだ?
審判がいない。
ストーンの微妙な距離はメジャーで測るらしいですが、ほとんどが選手自らで得点を決めている様子です。
日本が銅メダルを決めたイギリス戦でも、誰かが日本の勝ちをコールしたわけでもなく、イギリス選手が手袋を脱ぎ握手を求めた(敬意を評した)ことで勝敗が決したという、なんともジェントルなスポーツ。まだエンドが残ってるのに負けを認めることもあって、潔い。
 
 
 
5:あえて点を取らせるだと?
得点を重ねていくことが勝利への道であるはずなのに、カーリングは有利な後攻を得るために、あえて相手に点を取らせている。
損して得とれ?急がば回れ?急いては事を仕損じる?情けは人のためならず?
 
それとも最初は無料であとから「いただきます」の、フリーミアムか?
 
 
 
 
6:極めてテレビ向き
テレビ中継ではいつもハウスを真俯瞰から捉えた映像が出てくるのですが、試合中選手たちにも、あの真俯瞰映像は提供されているのかどうか。
もしあの真俯瞰はテレビ視聴者だけの特権だとしたら、選手は平面上直線上に見えるストーンしか把握できないのか。
となると、平面での見え方、味方の指示から瞬時に頭の中で真俯瞰映像をバーチャルに描き出しているのか。
 
サッカー選手もそうで、テレビやスタジアムで見ていると、フィールド全体を把握できるから、左サイド空いてるとかスペースがあるって分かるけど、同一平面上の選手たちは遠近でそれを把握するしかない。
優秀な選手は俯瞰で把握できるらしいけれど、凡人にはその感覚が理解できない。
イラストやマンガでも、3次元的な絵をパッと描けちゃう人いるけど、それと同じ能力が、経験によって養われていくのでしょうかね。
 
 
 
 
7:ピンマイクがもたらすもの
なんたってカーリングの最大の魅力はピンマイクの着用。
そだねー」「いいと思う」「ナイッス〜」だけでなく、「次にどうしようか」の声がきこえてくることが、どれほど観る者の興味を高めてくれることか。
 
いつも思うのです。
例えば野球やサッカーの選手交代のとき、コーチと選手がなに話しているか知りたくて仕方がない、映画やドラマのメーキングで監督がどういう言葉で演技指導しているか知りたくて仕方がない、カフェの隣の席でなに話しているか気になって仕方がない。
クローズドな空間での会話は人間性がもっとも表れ、その人に興味や好意を持つかの試金石となります。
 
小平奈緒選手がレース後韓国の選手とどんなコトバをかけあったか、羽生結弦選手が宇野選手の頭を撫でながらどんなコトバをかけたか、を後から記者たちが質問するのはそんな理由からなのでしょう。
みんなが知りたい「そこ」を、しっかりとリアルで届けてくれるカーリングは、スポーツという意味では不思議なスポーツです。
 
だって、作戦会議を対戦相手だけでなく、全世界にオープンにしているわけですから。
「なにを起こそうとしているのかわかってはいるが、筋書き通りにはいかない」カーリングの寛大さがそこにあります。
 
 
ところで、会場であの声は聞こえるのかな?観客は真俯瞰映像どこかで聞けるのかな?中継のように解説をどこかで聞けるのかな?
これら全部がテレビの特権だとしたら、素人は会場で見ちゃいかんね。
 
 
 
 
8:ピンマイクの成功からスポーツ鑑賞が変わる予感
ピンマイクは、トリノオリンピックから採用されたとのことですが、この演出は画期的かもしれない。もっと注目すべきポイントかもしれない。
 
オリンピックを機に、どんどんと映像技術が進化して、スーパースローとか分解とかリアルタイムCGとかが取り入れられ、それはそれで見ていて「おっ」と思いますが、案外とシンプルに基本中の基本の「音声」をしっかりと捉え、届けるほうがスポーツ観戦は面白くなるのかもしれません。
 
東京オリンピックから全選手にピンマイクの着用を義務付けて欲しい(軽量化技術を進めて)。
そうすると、選手たちの息遣い、コーチとの会話、ライバルとの駆け引き、試合後の称えあいなどが、リアルタイムで届けられ、臨場感は倍増間違いなしです。人間性も分かるしね。
 
 
 
 
9:「そだねー」は思いやりを育てる
ピンマイクのお陰で全世界に届けられた「そだねー
英語で言うと「I think so.」「I agree with.」「You are right.」になる?
 
北海道弁なのかどうかは知りませんが、4人が話し合い、出た結論は「そだねー」。
そだねー」は肯定のコトバ。相手を尊重するコトバ。
 
 
今や毎日どこかで燃え上がっている炎上やクレームの嵐。
差別だ偏見だそういう人ばかりじゃない押し付けだバカにしてるとの声があがって怖くてなにも発言できやしない。
そんなとき反論やクレームする前にひと呼吸して「そだねー」と呟きましょう。
そだねーそういう意見もあるねーいいと思う」
 
 
「こんな企画ぜーんぜんダメ」と否定から入る会議は、明日から「そだねー会議」と名前を変えれば意識も変わる。
 
行き詰まったら「もぐもぐタイム」で気分一新。
 
車が割り込んできたら「そだねー
 
女性専用車両に間違えて男性に乗り込んできたら「そだねー
 
注文した料理が来るのが遅くても「そだねー
 
 
そだねー」を流行語に終わらせてはいけません。
 
 
 
 
 
 
最後に、名古屋人から
カーリング女子が名古屋人だったら】

 

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