教えとか経験とか気遣いとか慣例とかを捨て去って生まれる「これもあり!」

スタジオとか会議室で人物を撮影する時、背景にバックペーパーを用意することがあります。
両サイドにスタンドを立て、渡した棒にペーパーのロールを差し込み、簡易スタジオのできあがりです。
 
 
でもこの背景で人物フルショットを撮る場合、カメラサイズは大体において横長なので、左右の背景が足りなくなります。
そのためフレーム内には、舞台裏のスタンドやライトなど入り込んでしまいます。見切れ、っていうやつです。
 
 
この見切れた部分は、その後の編集でバックペーパーと同じ色にして、あたかも画面いっぱいに背景があるかのように見栄えをよくし体裁を整えます。これが常でした。
 
その体裁づくりが最近ちょっと変わってきたような気がします。
 
 
CMなんかの完成品でも、舞台裏のスタンドやライトを隠さず、セッティングの状態そのままを見せている作品があることに気づきます。
 
香川照之が出ているトヨタイムズのCMなんかはスタンド、ライトの見切れから始まっています。

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「あえて」なんでしょうね。
 
 
 
もうひとつ、たまに目にする(耳にする)「あえて」があります。
 
 
CMは15秒30秒と時間が正確に決まっています。
セリフやナレーションは、その時間内にきちんと収めるため、読みのスピードを変えたり文字数を削ったり他のカットの秒数を調整したりするのが常でした。
 
最近たまに、セリフの途中でバシッと!強引にぶった切って終わらせるCMがあることに気づきます。
 
 
 
 
 
 
お決まりの作業だった
【舞台裏は隠さなくちゃいけない】
【セリフは秒数内にきちんと収めなくちゃいけない】
 
が、
 
【別に舞台裏見せてもいいじゃん】
【別に途中でセリフ切ってもいいじゃん】
 
へと。
 
 
そこにあるのは、
【これもあり】
 
だって
 
【おもしろいから】
 
 
 
最初にやった人、エライなぁ。
最初にやった人だけでなく、
「おお、それおもしろいじゃん。いっちゃえ!」とOK出しちゃった人もエライなぁ。
どちらかというとOK出した人のほうがエライなぁ。
 
 
 
でもこのふたつの「これもあり」は、そんな驚くようなことでもない。
別に時代を切り取ったとか新しい生き方の提案とか、そんな大仰なことでもなく単なる演出上のお遊びだから。
 
 
 
でも、こんな「これもあり」はどうですか?
 
 
 
はじめてそのCMを見た時、「え?」と目を疑ってしまいました。
「ありなの?」って。
 
 
 
3年ほど前のクルマのCM、たしかニッサンセレナ、です。
(もうリンク切れてるのでその時のスクショを添付します)

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少女には、歯がない、んですわ。
 
 
「歯がない少女の笑顔、ありなの?」
 
 
 
生え変わりの時期を迎えるこのくらいの年齢なら全く不自然じゃないのですが、CMという世界で目にすると違和感が先に立ちます。
 
オーディションでもよく出会います。数本歯が欠けている子どもたちと。
 
めちゃくちゃ笑顔が可愛く候補に残ったとしても、最後の最後に乱杭歯的要素でマイナスをつけ、「ごめんなさい」とすることがあります。
 
もしくは、
差し歯を用意して撮影に臨みます。
 
 
でも、このCM。
 
彼女でなければならなかった理由があったのかもしれない。だとしても差し歯ぐらいはするだろう、と思う。
 
でも、そのまんまの笑顔。リアルな笑顔。
 
別に「CMの人の笑顔は歯並びが良くなければならない」なんてルールも決まりも先輩からの教えもないのに、当たり前のように「これはなし」と決めつけちゃっているところがありました。
 
 
 
でも、「これもあり!なんだ」
 
 

 

 

ローカルで広告の仕事をしていると、当然のことながら予算に限りがあり、壮大なセット、作り込み、合成、デジタルアート、メジャータレントなんかとは縁遠いです。

東京発のCMや映像を見て、同じジャンルでありながらはじめから「これはない!」と遠ざけていました。

 

 

でもインパクトは、お金だけから生まれるものではありません。

 

 

お金をかけないアイデア、そう、アイデア

 

そして、そして、
 
これまで不文律とされていたものへの疑問から生まれる「これもあり!」
 
 
なんか、
とか、あと忖度?
円滑に人間関係を進めるためのこれら大切なことをときには疑ってみることも必要だなと、この歳になって改めて気づく平成最後の冬です。

 

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