「秘密の質問」に正直に答える必要ない〜岸本佐知子「ひみつのしつもん」を読んで

お気に入りの翻訳家に岸本佐知子さんという人がいます。 ミランダ・ジュライ「最初の悪い男」/ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」/ショーン・タン「セミ」など、著者のことはよく知らないけれど、岸本さん翻訳ということで手にとった本もいくつか…

向田邦子の新作が読めない代わりに今村夏子を読む

望んでも願っても悲しいかな、もう新作が読めない作家のベスト1は、向田邦子です。 今日8月22日は彼女の命日。飛行機事故で亡くなって38年ほど経つんですね。 「寺内貫太郎一家」や「時間ですよ」の頃は、向田邦子という天才の名はほとんど知りまませんでし…

その「半分こ」にあきれるか、おもしろがれるか。内藤ルネの「半分」におどろく

もう過ぎてしまいましたが7月6日はサラダ記念日でした。 俵万智さんの短歌というのは、基本シンプルな言葉を使っているゆえ、一読で素直に感じ入ることができます。 例えば、 「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ 大きければいよ…

「ドキュメント72時間」が好きな人にお薦めしたい「フィフティ・ピープル」

NHKの「ドキュメント72時間」が好きで欠かさず見ています。 www4.nhk.or.jp たまたま同じ場所の、たまたまの3日間の、たまたまの人たち。 登場する誰もがみな輝いているわけではなく、つらい状況にいたり、何かが終わろうとしていたり、始まろうとしていたり…

「幻の1940年計画」を知って「いだてん」を見るとおもしろいかも

「いだてん」第2部も突っ走っています。 このまま1964までどう引っぱってくれるのか楽しみで仕方ありません。 www.youtube.com そこで、気になるのは、1940年に開催される予定だった幻の東京オリンピック。 これは「いだてん」で描かれるのかどうか。 1964…

教科書には載らない川端康成がホントはおもしろい

<たちの悪いいたずらはなさらないで下さいよ、眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ。と宿の女は江口老人に念を押した。> <「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。 そして右腕から肩をはずすと、それを左手…

山里亮太&蒼井優の会見を見て「分人主義」における<愛>の姿を見つけてしまった。

芸能人の誰と誰がくっつこうが離れようが、わが日常は変わらずゴミ捨てに行かなくちゃいけないし、朝ごはんも食べなくちゃいけない。 朝ごはん食べながらテレビ見てたら、どこのチャンネルもあの二人の会見映像ばかりで、あーあと録画しておいた「デザイント…

それはホントに偶然か?「偶然仕掛け人」に仕掛られたい

会うべくして会う運命の出会いというのがあって、 運命というからには必然のような気がするけど、 出会いそのものは偶然にすぎなく、 それを運命とか必然に引き寄せるのは やはり本人次第ということになってしまう。 これは恋とか愛とかに限るだけじゃなくっ…

いつものコンビニで僕はなんて呼ばれているかふと気になって

よく見かけるんだけど<その人>の名前は知らない。 でも時に<その人>のことを話題にしなくちゃいけない。 「ほらほら、あの人」だけでは「あの人って誰?」となり、別の人を思い浮かべてしまうかもしれない。 そんなとき必要となるのが、仲間内だけで通じ…

「82年生まれ、キム・ジヨン」を読むべきは<昔は良かったけど今だダメ>と【今】に文句を言う男性だ

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本) 作者: チョ・ナムジュ,斎藤真理子 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/12/07 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (2件) を見る はじめて読んだ韓国文学。 ちょうど読み終えたタイミングで何気な…

小心者にとって平成から令和は絶好の変わるチャンス

令和へのカウントダウンがはじまっています。 その日まで<何者>にも襲われなければ、昭和ー平成ー令和と、3時代を生きていく男となってしまう。 若い頃は、「あの人明治生まれ」と聞くだけでその人は歴史上の人物に思えてしまってそれだけ昭和の時代は長か…

善良なる横道世之介に再び出会えた喜び

1ページ1ページがなんとも愛おしくて、いつまでも主人公に寄り添いたくなる小説があります。 前作から10年ぶりの続編「続 横道世之介」(吉田修一) 前作の結末に衝撃を受け、でも「ああ、世之介らしいな」と納得したものですが、続編ではこれまた見事に世之…

蜜柑をめぐるメタファー「バーニング」と「東京マリーゴールド」

みかん…ミカン…蜜柑。 蜜柑は美味しい。 そんな蜜柑がもっと美味しくなる(かもしれない)お話をふたつ。 村上春樹の短編「納屋を焼く」にパントマイムを習っている女の子が出てきます。 男性の前で延々と<蜜柑むき>のパントマイムを繰り返します。 「納屋…

「それしかない」病はヨシタケシンスケ読んで治そう

子どもになにか尋ねて「べつに〜」とか言われるとむっとくる。 口答えされた気になって「はっきりしなさい」と怒ったりする。 診断を下します。 それは明確なひとつの答えを求めてしまう「それしかない病」 大人の感染率は82%ぐらいで、自分は大丈夫、と思…

川端康成様、あなたはどんな花の名前を教えられたのですか?

普段まったく本を読まない人が本屋で一冊を迷うように、花の名前を知らない男は花屋で一輪を迷う。 花に疎いです。花の名前から実体が浮かびせん。(実体から名前も浮かばない) 名前と実体が一致しているのは、チューリップ、バラ、サクラ、ヒマワリ、それ…

顔に重度の障害を持った少年の物語「ワンダー」からできることを考えてみる

予告編を見てとても気になった映画「ワンダー君は太陽」。 原作の「ワンダー」(R.J.パラシオ)を読みました。 ワンダー Wonder 作者: R・J・パラシオ,中井はるの 出版社/メーカー: ほるぷ出版 発売日: 2015/07/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ …

日本沈没の時、「なにもせんほうがええ」を受け入れてしまいそうな自分

「深読み読書会」(NHKBS/3月17日)が「日本沈没」を取り上げていました。 10代のころめっちゃハマっていた小松左京。今でも本棚に数冊あったなぁと久しぶりに取り出してみました。 どれも日に焼けて、しかもところどころページ角に折った跡もあって、そり…

【宇野昌磨も銀!】に秘められた書店員の心をのぞいてみた

日本人選手が活躍する海外サッカーのスポーツニュースの常套句に、こんなのがあります。 「◯◯のパスを起点にゴールが生まれ、チームの勝利に貢献」 そのプレイの軌跡を見てみると、◯◯→A→B→C→D→E→そしてゴール! そりゃまあ起点と言っちゃ起点でまちがっては…

2017年読んだ本のなかから生き残った本たち(今年発行に限らず)

ホントにもう情報があふれすぎてあれいいよこれいいよの声聞くたび節操もポリシーもなく手を伸ばして気づくと12月18日時点でちょうど100冊の本を読んだことになっていました。 年齢のせいかその多くの内容が記憶から消え去ってはいますがそれでもしぶとく年…

あの時なにもしなかったからせめて知るだけでもと、「アリガト謝謝」

2011年4月109億円。2011年5月上旬160億円。そして最終的には200億円を突破。 東日本大震災に対する、台湾から日本への義捐金です。 世界最大の金額だったにも関わらず、世界6カ国7紙に掲載した、感謝を表す日本政府のメッセージ広告は台湾には行われませんで…

「蜂蜜と遠雷」を読んで。文章が「音」に「音たち」に変わる魔法の小説

上下2段500ページ超えの最初の1ページを開くタイミングは、難しい。下手にハマってしまうと抜け出せなくなってしまうから。 特に今週は撮影が続くから手を出すのは極めて危険。と、そんなとき、 天候の問題で撮影延期の連絡が。プレゼントのようなこの時間が…

「このハゲ!」と叫んだ女性政治家を笑う300年後の未来人たち

今日は朝っぱらからおっそろしく不快な声を何度も耳にしてしまいました。 有形無形の温かい支持が何よりも必要な、議員ともあろう人が、いわゆる「頭髪の乏しい」状態の人たちを一斉に敵に回してしまいましたね。 豊田真由子議員に元秘書への暴言・暴行疑惑…

2020年を迎える前に「TOKYOオリンピック物語」を読む

近々「走り」を本格的に日々行っている人を被写体とした撮影があります。 予定しているシーンは、都市のなか、自然のなか、住宅街のなか、さらにはトラックと舞台が分かれ、しかもカット数もある程度必要なため、それぞれにいかに変化をつけるかがなかなかに…

穂村弘さん、勝手に友だち宣言お許しを

穂村弘さんのこの一文。 悲しいほどこの気持が分かる。分かって気づく、いくら「深夜特急」や「謝々!チャイニーズ」を読んで、出会いやハプニングに憧れたって、そんな旅なんてできやしないっことに。 かつて会社員だったとき、東京へ出張するだけでも、同…

1967年のSNSはすごかった。森とんかつ泉にんにくかーこんにゃくまれてんぴら

「スター誕生と歌謡曲黄金の70年代」 副題だけを目にすると、なんか俗っぽくてタレント暴露本の香りがするけれど、いやいやなんの見事なドキュメントでした。 阿久悠「夢を食った男たち」。 夢を食った男たち 「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)…

カレーライス以外のカレーは邪道だ!と思っていたが、ああ、人生損してた

「今夜はカレーよ」「わーい」 なんて会話が聞こえてくると、夕暮れの河川敷を思い浮かべてしまうほどカレーが醸し出すイメージは温かい。 多くの人はカレーが好きなようで、Facebookにもたまに「休日の今日は朝からカレーを煮込んでいます」という男の料理…

分かる人だけ分かればいいという控え目な表現者たち

どんなに押しつけがましい発明家や芸術家も、自分の作品の受け手が赤ん坊であった時、それでも作品を一切変えない人間はどのくらいいるのだろう。過去の天才達も、神谷さんと同じように「いないいないばあ」ではなく、自分の全力の作品で子供を楽しませよう…

今でも読み返す「中国行きのスロウ・ボート」の意味深さ

お隣にある大きな国となんだかんだと問題が生じた時いつも思い出す短編小説があります。 今から30年以上前の、1980年に発表された村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」。主人公が知り合った3人の中国人の記憶についての物語です。 中国行きのスロウ・ボー…

俺はまだ本気出してない、と言い続けていつしか50代。奇跡を見せる資格ができました

「今でしょ」のあの人が教えているTハイスクールの映像授業。 生でなく、映像授業でモチベーションや集中力が保てるのだろうか、勉強が身につくのだろうかと、昭和のど真ん中で受験を戦ってきたオヤジは疑問を感じちゃったりするのですが、いやいやどうして…

美談の影にあるもの。映画「歩いても歩いても」見たら小説「横道世之介」を思い出してしまった。

是枝裕和の映画「歩いても歩いても」のなかにこんなシーンがあります。 歩いても 歩いても 発売日: 2016/05/01 メディア: Amazonビデオ この商品を含むブログを見る 原田芳雄と樹木希林の老夫婦が住む家に、長女・YOUと次男・阿部寛が、それぞれ家族を連れて…