気づいたのは、乗り換えのため駅のホームを歩いていた時。
家に置いたままか。
いや。
自宅最寄り駅の改札は通った。マナカはスマホケースに挟んである。
てことは、今乗ってきた電車のなかか。
その電車は折返し運転のため、まだホームに停まっている。
急いで車内に戻り、さっきまで座っていた座席周辺を探す。
が、
ない。
やばい。打ち合わせの時間が迫っている。いったん諦めて打ち合わせ先へと急ぐ。
打ち合わせ先で電話を借りて、自宅最寄駅に電話してみた。
あった。
ホームのベンチの下に落ちていたとのこと。
よかった。さすがニッポン。クールジャパン!おもてなしの国。スマホありの国。
それにしても、
ただそれだけで、所在がはっきりするまで何も他ごとを考えられなかった。
帰りにどこか寄ろうかなと思っていたけれど、とにかく早く駅に戻り、わがスマホの安否を確かめたかった。
寄り道脇道回り道道草食わずの帰り道。
この手にスマホを掴むまでこの手で個人情報を取り戻すまで一直線。
と、
ここまでがながーい寄り道脇道回り道。
今はまだ、スマホやケータイや財布や手帳が、日々持ち歩いている個人情報なわけですが、いやいや恐ろしいことに、気づかぬうちに別の個人情報を撒き散らしてる、ということもあります。
例えば、ポイッと捨てたガムやタバコの吸い殻だって、そうなのだ。
愛知芸術文化センター10階A13。
【ヘザー・デューイ=ハグボーグ「Stranger Visions」】は、ぞっとする。
そこに飾られているのは、誰かの顔のマスク。
顔の下には仕切りの入ったボックスがあり、アーチストのヘザー・デューイ=ハグボーグが、ニューヨークの街なかで収集した、ポイ捨てされたガムやタバコの吸い殻が、試料のように置いてあります。
これらからDNAサンプルを採取し、分析し、おそらくそうである<落とし主>の顔を3Dプリンターで創り出した彫刻作品が「Stranger Visions」
その顔は、「落とし主かもしれない。そうでないかもしれない」
スマホや財布などだけでなく、身体から故意に恣意に発せられるものも(そのスジがその気になれば)個人情報となりえることを示唆しています。
喋ればつばは飛ぶ。
暑ければ汗が滴る。
酔っ払えばゲロを吐く。
知らず知らずのうちの毛髪は抜ける。
タピオカ飲んだあとのストローにだって唾液はついている。
街はDNAサンプルに溢れている。
そこらじゅうが個人情報だらけ。
この作品で示されていることは当然今の段階では正確ではないし、絶対なものではありません。
作り出された3Dの顔で人物の特定などできやしません。
でも、いつか訪れるかもしれない可能性の未来を示しています。
だから、
だから、
だから、
ポイ捨ては止めましょうね。