体は地層のようなもの。伊藤亜紗「記憶する体」を読んで

先日、2020東京パラリンピックに出場が内定した女子陸上選手にインタビューをしました。
三重県在住の彼女は、中学3年生のとき交通事故に遭い、右大腿部を切断した、義足の走り幅跳び選手です。
 
インタビューのあと、練習風景も撮影しました。
 
「く」の字型のスポーツ義足をしなやかに操り走る姿は美しく、それは道具というよりも脚そのもの。
 
と客観的に表現してしまいますが、実際はどうなんだろう。
 
そこにはやはり、我々には想像もできない違和感もあるのだろう。
そうした違和感とも折り合いをつけながら、記録と戦わなければならない。
そんなことを、興味や関心はあったのだけど、聞けなかった。
 
 
 
そんな<無き体>の記憶って、との興味から読んだ本。
伊藤亜紗「記憶する体」

 

記憶する体

記憶する体

  • 作者:伊藤 亜紗
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2019/09/18
  • メディア: 単行本
 

 

 
視覚障害、四肢切断、吃音など12人の障害を持つ人の、<無き体の記憶>がまとめらてています。
 
例えば、中途障害の場合、記憶として知っている健常者の体と現在の障害を持った体との一致とズレの不思議さ。
 
先天的に、下半身を動かすことができない多重身体の人は、下半身の感覚がなくとも自分の脚が怪我しているのを見ると「痛いような気がしてくる」と言います。
その感覚がどこからくるかと言うと、上半身が知っている痛みの記憶が下半身に染み出していったからだそうです。
 
 
 
12人のエピソードはどれも面白く、というと誤解があるかもしれませんが興味深く、でも、やはり自分に置き換えて読むことはできず、感覚的にはわからない。
 
作者の伊藤亜紗さんも、そこはわかっていて、小説のように書いたと、どこかのインタビューで語っていました。
 
体は地層のような蓄積。長い時間をかけて固有に体が作り上げていく。
そんなコトバが印象的でした。
 
 
 
9月、冒頭の義足アスリートが出場するカテゴリーは、義足T63。

 

目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)

目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)

  • 作者:伊藤 亜紗
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/04/16
  • メディア: 新書