「愛の不時着」のあとに観るべき映画「太陽の下で〜真実の北朝鮮」

「そういえば緊急事態なんてのあったね」と、5年後10年後にその日々を振り返る時、セットで思い出すのが「愛の不時着」
境遇の異なる男女の、単なる恋物語…と思っていたらなんの、
はらはらどきどきにこにこげらげらいらいらむかむか…あらゆる感情がかき乱されました。見事でしたホントに。
 
特に興味深かったのは、北の人々の描き方。
ここで描かれていた「北」(の日常)は、ユーモアにあふれ、ああどこも一緒なんだ、と微笑んでしまいますが、だけど、どこまでがリアルなのかは、本当のところわからない。あのユーモアとキャラクターは南からの思いやりが多く含まれているような気もします。
 
 
「愛の不時着」への興味と好意から、続けて観てしまった映画があります。
 
故・金日成の誕生日を祝う「太陽節」の準備を記録した、ロシアと北朝鮮共同制作によるドキュメンタリー映画「太陽の下で〜真実の北朝鮮」です。
 
 
少年団に入団したひとりの少女とその家族の日常を中心に構成されていますが、撮影を進めるなか、ロシアの監督は気づきます。
北朝鮮側がセッティングした現場や人物やセリフの多くが演出であることに。
 
 
そこで、監督は、本来ならば録画スイッチを押さない本番前後も密かに撮影し、北朝鮮側の演出を収録しました。
 
映画にナレーションは一切なく、現場音のみです。
 
家族の食事風景や職場での慰労の現場では「もっと大きな声で」「もっと楽しく」と、北朝鮮側の指示ややり直しの声がそのまま収められています。
市民らが多く歩いて賑わう町の様子も、「アクション!」とかける声がそのまま使用され、エキストラが集められていることがわかります。
 
 
 
現場で行われる、こうした担当者による指示やダメ出しが、ヤラセだ演出だ、なんて問題視する気はまったくありません。
 
仕事で企業のPR動画を撮影する時にも、似たようなことはあります。
 
オフィスの様子を撮影する際には、
「みなさん、机の上片付けてください」
 
休憩やランチタイムなどオフタイムの撮影では、
「楽しそうに仲良く交流しあってください」
 
会議やミーティングの撮影では、
「真剣な顔で議論しあってください」
 
社員へのインタビューでは、
「今の答えに、やりがいがある的なひと言加えてもう一回」
というように、よく見せようとするのは当然です。PRですから。
 
 
ただ「太陽の下で」で描かれていた現場には、企業での撮影現場で当然ある、和気あいあいの笑顔がないってこと。
 
 
「太陽の下で」では、準備待ちや指示に従う市民の表情も盗み撮りされています。
みな、黙って従っています。
子どもたちは眠そうにあくびをしたりもありますが、大人の多くは無表情です。
 
客観的なナレーションがなく、ありのままを積み重ねているだけなため、解釈は観る側に委ねられます。
不気味ととるのか、自然ととるのか、本心ととるのか、偽りととるのか、様々です。
 
 
 
映画のラストで、少女が少年団にに入団して期待することは?問われ、答えるシーンがあります。
少女のアップが長回しで続きます。
 
少女は模範的な答えを話し始めるのですが、すぐに詰まり涙を流し始めます。大粒の涙が頬をつたい始めます。
本来ならばカットされるべきシーンが延々と続きます。
この涙が意味するところは…わかりません。
 
 
そしてエンドクレジット。
 
その背景は、太陽節行事に集まった市民が供えた花束を片付けるシーンです。
係員は花束を無造作に抱きかかえ、リヤカーのようなものに次々と放り込んでいきます。あたかもゴミを始末するかのようです。
なかには金属探知機で危険物がないかをチェックしている係員の姿も撮影されています。
 
 
 
「愛の不時着」で描かれていた北の人たちのユーモアあふれる日常に笑ったあと、「太陽の下で〜北朝鮮の真実」を見ることをお勧めします。
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