俯瞰で読む川上未映子

平成のはじめだったか昭和の終わりだったか、タイ・バンコクに向かう飛行機のなかで、のんびりと文庫本を読んでいたら、隣の席の女性が、文庫本を指差しながら英語で話しかけてきました。
その仕草と表情から想像すると、おそらくこんな意味の問いかけだったと思います。
 
「それは、文字なのか?どれが、文字なのか?」
 
問われて改めて気づきました。
日本語って、ひらがな・カタカナ・漢字、そして時々外国語も交じっている不思議な配列組み合わせの文字で、しかも縦書き。
 
英語もフランス語も、他のどこかの言葉は、おそらく形としては一種類で、
日本語ほどこんなにも形の異なる文字種が混じり合っている言語って、他にあったけ?
 
 
でもこの不思議な並びのおかげで、
例えばページいっぱいの文章を俯瞰で眺めても、ぱっと目につく漢字と漢字と漢字だけを結びつけるだけで、なーんとなくそのページで表現しようとしていることがおぼろげに分かったりすることがあります。
 
 
例えば、
 
 
僕すはち君だおけお初めて会ふこ時もす忘えしょか毎日眠とすは夜すと過ろあ続るとは好き
 
 
漢字だけを目で追いかければ、想像で意味するところを把握できたりすることができます。
 
 
そんな日本語特有の文字デザインが美しい文章の送り手がいます。
 
 
ああ、この漢字をひらがなで開くんだと、
ページを開くたびに、俯瞰で見る配列に見惚れて、ため息が出るのです。
 
こういうのって翻訳でどこまで伝わるんだろう、とつくづく疑問です。