高妍「緑の歌 収集群風」の愛おしさ

#風をあつめて #細野晴臣 #リリィシュシュのすべて #村上春樹 #海辺のカフカ #ゆらゆら帝国 #バンドをやってる友達 #ヤンヤン夏の想い出
 
これらタグになにか予感めいたものを感じたならば、ぜひともこのマンガを手に取ってください。
台湾のマンガ家・高妍(ガオイェン)さんの『緑の歌 収集群風』
宿題を忘れ、家まで走って取りに戻る高校生・緑(リュ)。
途中、暑さに負け、海岸に立ち寄る。
海と陸の境目でしばらく佇み、イヤホンから流れる音楽に浸る。
何巡目かのプレイリストから、はっぴいえんどの「風をあつめて」が流れてくる。
 
 
 
 
はじめて聴く曲なのに、どうしてもこうも「なつかしい」のだろう。
 

 

 
 
 
 
 
そんなふうに始まる、日本文化好きの少女の物語。
 
 
大学生となった彼女は、母親が日本人だというバンドをやっている男性と出会う。
彼の影響でさらに日本文化(音楽)へのめり込んでいく。
彼女は「風をあつめて」が収録されているアルバム「風街ろまん」はどこで買えるのとと、彼に訊く。
ネットでも配信でも音源は手に入るが、でも、と彼は言う。
 
 
「70年代の音楽は70年代のスタイルで聴くんだ」
 
 
 
彼に少しでも近づくために、彼女は「風街ろまん」のアルバムを手に入れるために、ひとり、東京を訪れる。
はじめての東京。着いた早々レコードショップに向かう。
すぐに見つかる。
「風街ろまん」を手にし、見つけた、とほっとした瞬間、店内に流れていた曲に気づく。
彼女のなかに「風をあつめて」をはじめて聴いた時のような感覚が蘇る。
 
 
 
私はその曲のタイトルをどうしてもなんとしても知りたかった。
顔が赤らみ心臓がドクドクと脈打つ。
曲の中から何か足跡を探すみたいに
私はその曲の拍子や旋律を必死に覚えようとした。
これを逃したら私は今後二度と
この曲を聴くことができないかもしれない。
曲が間奏に突入し私はようやく決心した。

 

 
 
そして彼女は店員に、英語でタイトルを尋ねる。
 
 
 
曲は、細野晴臣の「恋は桃色」
 
 
こうして彼女は細野晴臣に出会う。
そしてそしてそして。
 
 
と、このあとは実際に読んだもらうとして、作者によるあとがきを読むと、ほとんどが本人の実体験のようです。
 
 
 
このあとがきがまた素晴らしく、この上下巻以前にインディーズで出版した32ページの「緑の歌」があり、その出版をきっかけに作者・高妍さんの人生はとんでもない方向へと進んだようです。
 
好きを極めて好きを貫き通すことで、小さな人生は吸収力を高めてどんどんと大きなステージへと転がっていく。
 
上下巻の帯を誰が書いているかで、そのステージの熱狂は想像できるでしょう。
 

 
1ページ1ページがきらきらと愛おしくて、世代や国境や想像を軽々と飛び越えてしまう文化の輝きが眩しい。
きっとどこかで誰かに届いているって、ほんのちょっとだけでも信じることは大切だなと思ってしまいます。
 
 
映画化希望。もちろん監督は、岩井俊二で。