今村夏子「とんこつQ&A」

今村夏子待望の新作。
やはりこの人の放つストーリーは油断禁物。
今回の短編4作どれも、最後はとんでもないところへ連れて行かれてしまう。
 
 
「群像」の9月号で今村夏子研究がされていてその中にこんな引用文があった。
 
 
【いまや誰もが正常ではないのだ。私たちは長きにわたって、誰を社会に受け入れ誰を排除するかを決めるために「正常」という概念を使ってきた。だがもういい加減、正常とは有害な認識であることを認識すべきだ】
(ロイ・リチャード・グリンカー「誰も正常でないースティグマは作られ、作り変えられる」)
 



 
 
今村夏子の登場人物たちは、異常とまではいかないが、ここでいうカテゴライズされる正常でない人ばかりだ。
でも、その物語を読む者にしてみたら、その世界や言動はほんの数ミリほどどこかズレた非正常なのだ
 
 
 
表題作「とんこつQ&A」の主人公もそうだ。
とんこつラーメンを置いていない中華料理店とんこつで働き出した主人公。
接客が苦手で、注文取りや客とのちょっとしたやり取りができない。客との想定される会話をすべてノートに書き出し、それを読み上げるように接客をしていくようになる。
それをきっかけに主人公は明るく積極的になっていく、のであるならば普通の成長物語だ。
でも、今村夏子をそんな予想をみごとに裏切っていく。
 
とんでもない方向へと話は進んでいくのだ。
 
 
 
 
だから堂々とその非正常の人々の営みを描いている今村世界に触れていると、あれ?もしかしてこっちが正常じゃない?なんて思えてくるから不思議だ。
 
 
 
しかしまあ、最近は正常と異常が入り乱れていて、要職につきながら平気でウソをついたりすっとぼけたり忘れたふりをする人たちは明らかに異常なんだけど、あちら側ではそれが通常運転のようで、今村夏子世界を見ているようでぞっとする。