もしかして、もしかすると、自分は過去、夏目漱石の「坊っちゃん」を読んでいないのでは。読んでいたとしてもそれは、小学校か中学の教科書に載った一文だけの可能性が高い。いや、それだけでは読んだとは決して言えない。あまりにも有名だから、読んだ気になっていただけなのかもしれない。
今回あらためて(初めて)読んでみて、自分が知っている(つもりだった)「坊っちゃん」とあまりにも異なっていたからそう思う。
「坊っちゃん」とは、学校の先生になった若者の話。ここまでは正しい。
しかし、それ以外がまったく異なる。先生と生徒が、反発しながらも、勉学に運動に、ああだこうだとやり合い、最後にはお互い信頼しあうという、よくある学園モノだと、ずっと思っていた。
その中に、マドンナと呼ばれるヒロインが登場し、主人公である坊ちゃんと恋に落ちるとずっと思っていた。
が、全然ちゃうではないか。
主人公は先生でありながら、授業のシーンなど殆ど出てこない。
名前のある生徒さえ、いない。「ぞな、もし」と話す生徒A生徒Bしか出てこない。
そのうえマドンナって一体誰よ?
坊っちゃんとはなんの関わりのない謎の女性ではないか。ずっとずっと思っていた。
坊ちゃんは、さわやかで曲がったことが大嫌いという若者だと。
が、坊ちゃんの口から出てくるのは田舎の悪口。大人への反発と文句ばかり。
最後には……までやらかして、まあ、随分とアクティブな青年だこと。
だからダメ、というわけではない。全くない。面白いンだな、これが。
短い文章が次々と連なっていくそのリズムは100年以上経った今でもしっかりと通用する。心地よささえ感じてしまう。一文一文が躍っている。とてもストレートで、軽妙さに満ちている。ちょっと真似したくなる、お手本のような文章だ。
ところで、坊っちゃんの名前ってなんて言うんだ。