撮影の合間だって、育休産休の間だって、他ごとやるのムリなんだって

「撮影の合間でいいから企画をふたつみっつよろしく」
「泊まりのロケでも夜は暇でしょ、その間に企画できるよね」なんてことを、若い頃はよく言われました。
 
 
そんなぁ〜ムリっすよ。
 
 
と首を振っても、返ってくるのは「できるできる君ならできる」のひと言。
 
自信たっぷりに頷くその笑みと、やさしく肩を叩く仕草は、君のキャリアアップのために用意した舞台なんだよ、のおためごかしを秘めていて気持ち悪かった。
 
 
 
有史以来、撮影の合間の企画、なんていう偉業を成し遂げた者はいるのだろうか。天才なんかじゃない自分はできた試しがなかった。
 
 
 
だって、演出という立場の場合、
今ここ、何が起きるかわからない、常に瞬発的な判断が求められる、集中が必要となる、この目の前の現場に向き合うだけに精一杯で、異次元に向かう余裕なんてありゃしない。
 
 
例えばですね、
 
いつ何時ぐずったり泣いたり熱を出したりする赤ちゃんの機嫌をとりながら愛くるしい笑顔を撮影しなくちゃいけない撮影現場で、
スキルアップや学位取得のための学び直し教材をアピールする企画を考えるなんて、そんな器用な頭と体と時間の切り替えなどできるわけがありません。
 
まったくもう現場を知らない人のいうことは!
 
 
 
 
撮影っていっても、セットや照明の準備やメイク待ちの時間やお昼休みだってあるから、そのちょっとしたすきま時間に頭を切り替えれば別の企画だってできるはず。
 
そうおっしゃるあなたもかつては現場に出ていたのでは?
その時現場でスイッチのONOFFのように即時に切り替えはできていましたか。
 
 
 
え?あ、そうか。もしかしてあなたは。
 
 
例えば先程あげた、
ぐずる赤ちゃんの撮影現場で学び直し教材の企画を考える、というケースの現場にいたとしても、
あなたは直接その現場を収める立場ではなく、
一歩離れたところから「泣いてるぞ」「おむつじゃない?」「お乳欲しいんじゃない」と声をかけるだけの人だったかもしれませんね。
 
 
 
現場にはいたかもしれないけれど、現場を知らない人っているわけだ。
その現場の現実を知らない人が、理想の形を頭のなかだけで考えて、言うのだ。
 
 
「撮影の合間に企画をふたつみっつよろしく」とか
「産休・育休の間に学位とってね」と。
 
 
異次元とはそういうことだったのか。