角田光代「タラント」

物語を紡ぐ、ってまさにこういうことなんだなぁと。
 
タイトルの「タラント」とは、使命とか才能を表す言葉で、
そう聞くと選ばれた者だけに
与えられる特殊なもののように聞こえてしまうけれど、
いやいやそうとは限らない。
 
重大な決意なんかなくたって、誰だってそれぞれが
なんということのない義務感に突き動かされて、
やれることをやっている。
 
と、何かが動き出すまでの心の動きを400ページ以上かけて丁寧に描いている。
 
 
未知の何かが動き出すときのうっすらとした恐怖。
動き出さなければ何も起きないという現実。
でも動き出してしまったら失敗があるかもしれないという不安。
 
 
こうした勇気のいる道筋が、
ボランティア活動に取り組むなか正義と偽善のはざまで悩む主人公、
戦争で片足を負傷した主人公の祖父、
パラリンピックスポーツのはじまり、
海外難民キャンプの子どもたち、
海外で拘束されたジャーナリスト、
2020年の東京パラリンピック出場内定の義足の走り高跳び選手、
そしてコロナ禍での人々の小さな新しい動き出し、
などと絡めて丹念に描かれている。
 
 
散りばめられたひとつひとつのエピソードが素晴らしく、余韻がしばらく残りそうです。