藤本タツキ「ルックバック」を倍速問題と絡めて読んでみた

藤本タツキ「ルックバック」
このマンガの読み方を、最近とかく話題の「倍速」と絡めてみる。
 
1回目:
マンガなので、大きなコマを中心に、ネーム優先で、倍速とまではいかないけれど、1.5倍速ぐらいの感じでぱらぱらと読んでみる。
うん?
もしも〜だったら?のアナザーワールドを描いた作品なのか?
でもなんかそれだけじゃないような…。
 
 
2回目:
とりあえず読んだ、で本棚にしまってしまうにはなんか重要なものを見逃したような、もったいないような気がして、今度は一倍速でじっくりと読み返してみる。
二人の人物の、人生のはじまりと変換点をしっかりと頭に叩き込んで、もしも?を考えてみる。
あれ、この作品ってもしかして。
 
 
3回目:
3回目は、0.5倍速と一時停止と早戻し(巻き戻し)を繰り返しながら味わってみる。
あの時…ああしたことで…新たに開けた人生が良かったことなのかそれとも不幸だったのか。
起きてしまった不幸を、そのきっかけを遠い昔に作ったのは自分だ、と後悔するのはあまりにも辛い。
 
ここで改めてタイトルの「ルックバック」の意味を考えてみる。
 
「振り返り」なんだろうけれど、「バック」には「背中」ていう意味もあって、物語のなかで主人公はいくども誰かに背中を見せ続けている。
 
背中を見せる…それは実際の姿勢であると同時に、それでも私は前を向いていくよ、のメッセージとなって読む人に響いてくる。
 
これ、傑作じゃん。
 
 
 
 
 
一回こっきりの、しかも倍速では気づけなかった、見過ごしてしまったいくつかを、2回3回とスピードを変えて読み返すことで、気づくことがいっぱいある。
一回見ただけ読んだだけで、おもしろかった、つまんなかった、と終えてしまう淡白な作品はもちろんあって、それはそれで終わり、でもいい。
 
でも、なぜか途中で「おや?」と不思議な感覚が込み上がってくる作品もあって、おそらくその作品は、一回だけや倍速では気づけない仕掛けや仕組みが巧みに込められているはずで、だからその感覚を信じて、その感覚が何だったかを確かめたくて、繰り返し接してしまう。
 
 
消費、と捉えてしまうと、時間のムダかもしれないけれど、でも、心に残る作品に含まれている栄養分はとても豊富で、濃厚な時間をもたらしてくれる。
 
 
倍速やスキップは自分でもするから、否定するつもりはないけれど、倍速のなかで感じる「おや?」っていう感覚には敏感でありたいと思う。