自尊心への礼儀

「自尊心への礼儀」
 
 
「三十の反撃」(ソン・ウォンビョン)という小説のなかに、こんな表現がでてきます。
 
 
主人公の女性は30歳。大手企業が経営する文化部門(カルチャーセンター)で講師の手配や時間割を担当している、非正規職員です。 
 
これまで、社会の小さな理不尽や不公平や差別に対して見ないふりをして遠ざかっていたのだけど、ある人物との出会いによって、我慢することを止め、小さな反撃を試みていくという、痛快な物語です。
 
 
「間違っていることを間違っていると言うだけで少しは世の中が変わる」
というメッセージが込められています。 
 
 
 
そんな彼女が、ポリシーとしているのが「自尊心への礼儀」というマイルールです。
お金の余裕がなくとも、月に一度ぐらいは映画や展覧会を観に行き、そして外食をする。 
その程度の文化的な推進は、私の<自尊心に対する礼儀>だ。 
いつか文化関連の仕事をやりたいという夢に対する最低限の投資でもある。と。
 
 
がんばった自分へのご褒美、とはちょっと違ったこのマイルール、同じようなことは多くの人がしていると思う。 
 
でも、この物語の主人公のように「自尊心への礼儀」という言葉にして掲げると、とたんに際立って輝いてきます。 
 
ぼんやりとした価値観を明確に言語化してくれる。それもまた文学の力でおもしろい。
 
 
 
前作「アーモンド」に続き、本屋大賞翻訳部門1位を獲ってます。